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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)344号 判決

原告

【A】

訴訟代理人弁護士

会田恒司

同弁理士

【B】

被告

スガノ農機株式会社

代表者代表取締役

【C】

訴訟代理人弁護士

井波理朗

太田秀哉

柴崎伸一郎

関口智弘

同弁理士

【D】

【E】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成9年審判第13993号事件について、平成10年9月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「リバーシブルプラウの砕土装置」とする特許第2567812号発明(平成6年2月25日出願、平成8年10月3日設定登録)の特許権者である。

被告は、平成9年8月20日、原告を被請求人として、本件特許につき無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成9年審判第13993号事件として審理したうえ、平成10年9月24日に「特許第2567812号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第6項に記載された発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年10月12日、原告に送達された。

原告は、平成11年5月28日、本件明細書の記載を訂正する旨の訂正審判の請求を行い、特許庁は、同請求を平成11年審判第39043号事件として審理したうえ、同年8月11日、上記訂正を認める旨の審決をし、その謄本は、同年9月8日、原告に送達された。原告は、さらに、平成12年5月12日、本件明細書の記載を訂正する旨の訂正審判の請求を行い、特許庁は、同請求を訂正2000-39043号事件として審理したうえ、同年6月23日、上記訂正を認める旨の審決をし、同年7月17日、その写しが原告に送達された。

上記各訂正の結果、設定登録時における本件明細書の特許請求の範囲の請求項1~6のうち、請求項2~6が削除された。

2  本件明細書の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の要旨

上下に夫々一以上の耕起用ボトム1が設けられたプラウフレーム2を有し、そのプラウフレーム2がトラクター16の取付フレーム3に対して反転可能に構成されたリバーシブルプラウ4、

に設けられる砕土装置において、

前記ボトム1による耕土状態の姿勢にて、前記ボトム1の耕起反転側で且つ、前記ボトム1の進行方向後方に延在するように、前記プラウフレーム2に設けられる基部フレーム7と、

支軸の軸線が前記進行方向に位置するように前記基部フレーム7に長手方向の中央部が軸支された門型の転動体支持フレーム8と、

その支持フレーム8の前記門型の両脚部9に取付けられた砕土用転動体6と、

を具備し、その砕土用転動体6の重力により常に、前記門型の前記両脚部9が重力方向下向きに位置するように構成されたリバーシブルプラウの砕土装置。

3  審決の本件発明に関する部分の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明が、(1)平成5年10月15日に被告が公然実施したデンマーク国ダルボ社製のリバーシブルプラウの砕土装置「165㎝ AT.Compactor 2100」(以下「ダルボ社砕土装置」という。)に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであって、同法123条1項2号の規定により無効とされるべきものであるとし(審決記載の「無効理由1」、以下「無効理由1」という。)、(2)1984(昭和59)年10月10日に外国において頒布された刊行物である英国特許公開公報2137461号(以下「引用例」という。)に記載された発明及び周知事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであって、同法123条1項2号の規定により無効とされるべきものであるとし(審決記載の「無効理由2」、以下「無効理由2」という。)、(3)平成5年10月に原告が公然実施した発明であるから、特許法29条1項2号の規定に違反して特許されたものであって、同法123条1項2号の規定により無効とされるべきものであるとした(審決記載の「無効理由4」、以下「無効理由4」という。)。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件発明の要旨の認定、無効理由1についての判断中の、審決甲第1号証(本訴甲第5号証の1)添付資料2(スタルケ・ブリュッケ輸入輸出会社(STARKE BRUCKE IMP-EXP GMBH)のスガノ農機株式会社宛て書留郵便写し)、同添付資料3(スタルケ・ブリュッケ輸入輸出会社のスガノ農機株式会社宛て送り状写し)、同添付資料4(船荷証券写し)、審決甲第1号証の2(本訴甲第5号証の2、シーブリッジ運送会社(SEABRIDGE TRANSPORT INC.)のスガノ農機株式会社宛て運送受取書(FREIGHI RECEIPT)写し)及び審決甲第1号証の3(本訴甲第5号証の3、東京税関大井出張所長発行の輸入許可通知書写し)の各記載についての認定(審決書15頁16行~16頁6行)、無効理由2についての判断中の、引用例の第2図に記載された発明(以下「引用例発明」という。)の認定(同30頁12行~32頁2行)、引用例発明の「プラウ体43と土壌円盤22からなる耕起部」、「A字型フレーム29」、「リバーシブル円盤耕転機10」、「脚部を両側に有する門型のフレクシコイル・ローラ支持フレーム」及び「フレクシコイル・ローラ52」が、それぞれ本件発明の「耕起用ボトム1」、「取付フレーム3」、「リバーシブルプラウ4」、「脚部9を両側に有する門型の転動体支持フレーム8」及び「砕土用転動体6」に相当するとの認定(同32頁7~15行)、並びに引用例発明の延長部58が、軸部材31の横方向ビーム25からトラクタ進行方向に突出した端部に回転自在に取り付けられ、支軸の軸線が該進行方向に位置するように、当該突出した端部に軸支された旨の認定(同32頁19行~33頁4行)は認める。

審決は、無効理由1についての判断において、ダルボ社砕土装置が公然実施されたと誤って認定し、また、本件発明とダルボ社砕土装置との相違点を看過し、さらに、相違点についての判断を誤った結果、本件発明が、公然実施されたダルボ社砕土装置に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至り(取消事由1)、無効理由2についての判断において、本件発明と引用例発明との相違点を看過し、また、相違点(1)、(2)についての判断を誤った結果、本件発明が引用例発明及び周知事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至り(取消事由2)、無効理由4についての判断において、原告の内面的意思を看過して、本件発明を公然と実施したことが原告の意に反しないと誤って認定したものである(取消事由3)から、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)

(1)  ダルボ社砕土装置の公然実施の認定の誤り

審決は、無効理由1につき、ダルボ社砕土装置が公然実施される経緯に関して、審決甲第1号証(本訴甲第5号証の1)添付資料2、同添付資料3、同添付資料4、審決甲第1号証の2(本訴甲第5号証の2)及び審決甲第1号証の3(本訴甲第5号証の3)にそれぞれ記載された「Invoice No.」や「B/L No.」が同じであること等を根拠として、「スガノ農機株式会社は、スタルケ ブリュッケ輸入輸出会杜を通じて、ダルボ社の『165㎝ AT.Compactor 2100』(注、ダルボ社砕土装置)を購入し、これが平成5年10月上旬にスガノ農機株式会社茨城工場に第一港運によって搬入されたと推認できる。」(審決書16頁7~13行)と認定したが、原告が、審判において主張した審決甲第1号証添付資料2~4に記載された船名(MAERSK PARIS)と、審決甲第1号証の2、3に記載された船名(LICA MAERSK)とが相違する点について、得心することができる理由を示しておらず、上記認定には誤りがある。

(2)  相違点の看過

審決は、無効理由1につき、ダルボ社砕土装置と本件発明とを対比するに当たって、「本件発明1(注、本件発明)の実施例においては、基部フレーム7に軸部19が固設されており、転動体支持フレーム8の基部フレーム7への連結において、ダルボ社砕土装置のように前記調整ねじを設けないものである。」(審決書22頁5~9行)としながら、「ダルボ社砕土装置における前記軸受18は、作業時、前記調整ねじ20によって、その軸線がトラクター16進行方向になるように調整され(当然このとき、軸部19の軸線も前記進行方向に調整される)、転動体支持フレーム8が、前記進行方向と直行する位置に調整されるものであることから、ダルボ社砕土装置は、その具体的な構成において前記調整ねじ20を設けたものであるが、本件発明1の『支軸の軸線が進行方向に位置するように基部フレーム7に長手方向の中央部が軸支された門型の転動体支持フレーム8』という構成を有したものであると認められる。」(同22頁9行~23頁1行)としたうえで、本件発明とダルボ社砕土装置が、「基部フレーム7の取付において、本件発明1は、プラウフレーム2に取り付けたのに対し、ダルボ社砕土装置は、前記取付ブラケット13に取り付けた点」(同23頁5~8行)のみで相違し、その余の点で一致すると認定した。

しかしながら、ダルボ社砕土装置においては、基部フレーム7が取付ブラケット13に取り付けられているとともに、基部フレーム7の軸線の方向を調節する調整ねじ24が設けてあり、さらに、基部フレーム7を門型の転動体支持フレーム8に接続するための軸受18及び軸部19がいずれも転動体支持フレーム8に配設され、これら軸部19と軸受18に対する基部フレームの連結は、軸受18に固着した上下2枚の板状の軸受部26に対してピン23を介して回動自在に連結され、基部フレーム7に対する転動体支持フレーム8の角度(砕土用転動体の角度)を調節するための調整ねじ20が設けてあって、これらの調整ねじによって、基部フレーム7の軸線及び基部フレーム7と転動体支持フレーム8とを接続する軸受18の軸線の方向を調節するものである(そのほかに、上記審決の相違点認定のとおり、プラウフレーム2も取付ブラケット13に取り付けられており、プラウフレーム2の取付ブラケット13に対する角度の調節のための調整ねじが設けてある。)。

これに対し、本件発明では、基部フレーム7の後端に支軸19を、転動体支持フレーム8に軸受18を設け(又は、基部フレーム7の後端に軸受18を、転動体支持フレーム8に支軸19を設け)、これらを係合させることによって基部フレーム7と転動体支持フレーム8を接続してあり、支軸19の軸線は常に進行方法を向くよう固定してあって、調整ねじを一切用いていない。ダルボ社砕土装置のように複数の調整ねじを設けた場合においては、1本の調整ねじによって調節をすると、それが他に影響して、次々と調整ねじによる調節をせざるを得ず、非常に煩雑であるが、本件発明においては、何らの調節をすることなく、支軸19の軸線が進行方向を向くことになる点に技術的な特徴がある。このように、本件発明では調整ねじを設けないのであるから、本件発明の要旨に「調整ねじ」という用語が記載されようがないのであり、本件発明の要旨に「調整ねじ」という用語が含まれていないことは、本件発明において調整ねじを要しないことを意味している。審決は、「本件発明1の実施例においては、・・・調整ねじを設けないものである。」(審決書22頁5~9行)とするが、本件発明において調整ねじを設けないのは、実施例に限ったことではない。

また、審決は、ダルボ社砕土装置の軸受18の軸線が進行方向を向くように調節されるから、本件発明の構成を有すると認定したものであるが(同22頁9行~23頁1行)、軸受18の軸線は必ずしも進行方向を向くとは限らず、進行方向を向くようにするためには、上記調整ねじを調節する必要がある。そのように調節することが可能であるから、本件発明と構成が同一であるとした認定は、本件発明の理解を誤ったものである。

したがって、審決がしたダルボ社砕土装置と本件発明との対比には、上記調整ねじの有無についての相違点を看過した誤りがある。

(3)  相違点についての判断の誤り

審決は、無効理由1につき、その認定した本件発明とダルボ社砕土装置との相違点である「基部フレーム7の取付において、本件発明1は、プラウフレーム2に取り付けたのに対し、ダルボ社砕土装置は、前記取付ブラケット13に取り付けた点」(審決書23頁5~8行)について、「本件発明1において、基部フレーム7をプラウフレーム2に取付けたことに格別の技術的意義即ち格別の効果は認められず、この砕土装置をトラクターに取り付けるに当たり、その取付位置をプラウフレームとすることに格別の困難性はなく、当業者において、その必要に応じ適宜なしえた設計事項と認められる。」(審決書23頁9~16行)と判断したが、それは誤りである。

すなわち、プラウフレームに配設されたボトムは、圃場の土を耕起反転させるものであり、基部フレーム7の後端に連結されている砕土用転動体は、耕起反転させた土を砕くために用いられるものであるから、砕土用転動体の全長(横幅)が耕起反転させた土の幅に相当することが必要であるが、それ以上長くする必要はない。

しかるところ、ダルボ社砕土装置においては、取付ブラケット13に取り付けられた基部フレーム7が直線状に形成され、かつ、取付ブラケット13における基部フレーム7とプラウフレーム2の取付位置に数十㎝の乖離があるために、砕土用転動体6が、プラウフレーム2から遠ざかる方向に存在し、しかもプラウフレーム2の反転に備えるために、全長(横幅)の長い大型で重量のあるものとなっている。

これに対し、本件発明は、基部フレーム7をプラウフレーム2に設け、基部フレーム7と砕土用転動体6とを軸支する支軸の軸線が進行方向に位置する構成であって、基部フレームが直線状であることは必要なく、プラウフレーム2における基部フレーム7の取付位置も限定されない。そして、このような構成により、本件発明においては、砕土用転動体6の全長(横幅)を短くして、小型軽量化を図ることができる。

審決の上記相違点の判断は、このような効果を有する本件発明の構成を看過したものといわざるを得ない。

2  取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)

(1)  相違点の看過

審決は、無効理由2につき、本件発明と引用例発明とが、「(1)プラウフレーム(横方向ビーム)と転動体支持フレーム(フレクシコイル・ローラ支持フレーム)との接続を、本件発明1(注、本件発明)は、基部フレーム7であるのに対し、引例発明(注、引用例発明)は、前記延長部58と引っ張りバー54である点。」(審決書33頁8~12行)、及び「本件発明1は、転動体支持フレーム8の長手方向中央部で、支軸の軸線が進行方向に位置するように基部フレーム7に軸支されているのに対し、引例発明は、フレクシコイル・ローラ支持フレームの長手方向中央部で前記引っ張りバー54に接続し、この引っ張りバー54に接続する前記延長部58を支軸(前記軸部材31の突出端部)の軸線が進行方向に位置するようにして軸支した点。」(同33頁13行~34頁1行)のみで相違し、その余の点で一致すると認定した。

しかしながら、引用例発明においては、延長部58が、横ビーム25の約4分の1の位置で軸部材31に連結され、この延長部58の他端に連結されている引っ張りバー54は、フレクシコイル・ローラ52の長手方向中央部に位置しているのに対し、本件発明においては、基部フレーム7がプラウフレーム2に取り付けられる構成であって、その取付位置は限定されない。

そして、上記のとおり、砕土用転動体(引用例発明のフレクシコイル・ローラ52)は耕起部により耕起された土を砕土するものであるから、その全長(横幅)が耕起させた土の幅に相当することが必要であるが、それ以上長くする必要はないところ、引用例発明の上記構成において、フレクシコイル・ローラ52の全長(横幅)の約2分の1が、横方向ビーム25の長さの約4分の3に相当するとした場合、フレクシコイル・ローラ52の左右いずれか2分の1の横幅のうちのかなりの部分は、耕起されていない土の部分を進行することになり、したがって、引用例発明のフレクシコイル・ローラ52は、無用に横幅が長いものとなる。これに対し、本件発明の上記構成は、基部フレーム7と砕土用転動体6とを軸支する支軸の軸線が進行方向に位置することと、基部フレームが直線状であることは必要ないことと相俟って、上記のとおり、砕土用転動体6の横幅を短くして、小型軽量化を図ることができるものである。

審決がした引用例発明と本件発明との対比には、上記の相違点を看過した誤りがある。

(2)  相違点(1)についての判断の誤り

審決は、無効理由2につき、本件発明と引用例発明との相違点(1)として認定した「プラウフレーム(横方向ビーム)と転動体支持フレーム(フレクシコイル・ローラ支持フレーム)との接続を、本件発明1(注、本件発明)は、基部フレーム7であるのに対し、引例発明(注、引用例発明)は、前記延長部58と引っ張りバー54である点」(審決書33頁8~12行)の判断に当たり、「本件発明1の基部フレームのような1つのフレームからなるものにて、砕土装置を接続するようなことは、本件出願前周知である・・・本件発明1のように基部フレームにしたことにより引例発明と比べ格別の効果も認められない。」(同34頁4~10行)としたが、それは誤りである。

すなわち、引用例(甲第6号証)の第2図により、引用例発明のフレクシコイル・ローラ52を牽引する延長部58と引っ張りバー54とが、継ぎ手56によって連結されており、この継ぎ手56の部分で、進行方向左右に屈曲可能な構造であることは明白である。そうすると、引用例発明においては、圃場におけるプラウの進行方向の一端でUターンする場合に、継ぎ手56の部分で延長部58と引っ張りバー54とが屈曲し、さらに進行すればやがては直線状になるものの、その間に、圃場における進行方向端部に、フレクシコイル・ローラによって砕土することができない部分が発生し、あるいは、圃場の角部を進行方向を90度転換して通過する場合にも、継ぎ手56の部分で延長部58と引っ張りバー54とが屈曲し、角部にフレクシコイル・ローラによって砕土することができない部分が生じることになる。さらに、継ぎ手56の存在により、圃場の進行中に、牽引されるフレクシコイル・ローラ52が土の抵抗によって傾くこともある。引用例発明が、このような問題点を有するのに対し、本件発明は、基部フレームに継ぎ手がないので、かかる問題点が生じないのであり、したがって、審決の上記「本件発明1のように基部フレームにしたことにより引例発明と比べ格別の効果も認められない」との判断は誤りである。

なお、この点に関連して、審決は、「プラウ(耕起部)を反転のため持ち上げたとき、本件発明1の基部フレームの場合、前記支持フレームも持ち上げられるのに対し、引例発明の場合、延長部58と引っ張りバー54とは屈曲して前記支持フレームが持ち上がらないものと認められるが、この作用上の差によって両者に効果上の格別の差異が生ずるものとは認められない」(審決書34頁11~17行)と判断するところ、この判断に鑑みて、審決が、引用例発明のプラウを反転させる際に、プラウを持ち上げて行うものと認定していることが明らかであるが、引用例発明においては、ダブルアクションラム33を作動させて、これに連結されている突出部35を回転させることにより、両端が突出部35と横方向ビーム25に固着された軸部材31が、横方向ビーム25とともに回転して(なお、このとき、軸部材31とフリーホイール状態となっている延長部58は回転せず、したがって、フレクシコイル・ローラ52も回転しない。)、プラウの反転をするのであり、プラウを持ち上げるものではない。したがって、引用例発明は、プラウを反転させる際に、プラウを持ち上げて行う本件発明と、リバーシブルタイプのものである点では同様であるものの、技術的思想又は技術的前提を異にするから、本来、比較できないものである。

(3)  相違点(2)についての判断の誤り

審決は、無効理由2につき、本件発明と引用例発明との相違点(2)として認定した「本件発明1(注、本件発明)は、転動体支持フレーム8の長手方向中央部で、支軸の軸線が進行方向に位置するように基部フレーム7に軸支されているのに対し、引例発明(注、引用例発明)は、フレクシコイル・ローラ支持フレームの長手方向中央部で前記引っ張りバー54に接続し、この引っ張りバー54に接続する前記延長部58を支軸(前記軸部材31の突出端部)の軸線が進行方向に位置するようにして軸支した点」(審決書33頁13行~34頁1行)、すなわち、「転動体支持フレーム(フレクシコイル・ローラ支持フレーム)をプラウフレーム(横方向ビーム)に対し回転自在とする構成を、本件発明1は、転動体支持フレームと基部フレームの接続するところにおいて行い、引例発明は、本件発明1の基部フレームのプラウフレーム側に相当する前記延長部58と横方向ビームの接続するところで行った」(同35頁3~10行)相違について、「本件発明1のようなところに前記回転自在の構成とすることにおいて、引例発明のものと比べ格別構造上の困難性も効果上の顕著性も認められない」(同頁14~17行)としたが、それは誤りである。

すなわち、本件発明は、基部フレーム7と砕土用転動体6とを軸支する支軸の軸線が進行方向に位置する構成であって、基部フレームが直線状であることは必要なく、基部フレーム7自体の軸線が進行方向に位置している必要もない。そして、砕土用転動体6を小型軽量とするため、基部フレーム7を直線としなかった場合には、基部フレーム7のプラウフレーム2側の部分を回転自在としても、転動体支持フレーム8は回転自在とはならないから、転動体支持フレーム8を回転自在とするには、基部フレーム7と転動体支持フレーム8との接続部で回転自在とする構成が不可欠となる。したがって、審決が「本件発明1のようなところに前記回転自在の構成とすることにおいて、引例発明のものと比べ格別構造上の困難性も効果上の顕著性も認められない」とした判断は誤りである。

3  取消事由3(無効理由4についての判断の誤り)

審決は、平成5年10月に、原告が、北海道河西郡<以下略>の【F】の圃場において、砕土装置の試作品の運転実験(以下、この実験を「本件実験」といい、本件実験に供した砕土装置の試作品を「本件試作品」という。)をした際に、その場に被告従業員の【G】が居合わせたことについて、「本人【A】は、前記砕土装置の実験を秘密裏に行うことを誰かに意志表示した事実は認められないこと、及び・・・本人【A】の『自分が発明をしたものであれば、これを特許出願前に他人に知られても、特許になると思っていた。本件無効審判事件において前記のように知られた場合には、特許にならないことを知った。』旨の証言から、本人【A】は、前記砕土装置の実験を秘密裏に行おうとする意志があったとは認められない。」(審決書44頁15行~45頁4行)、「本人【A】は、前記砕土装置の実験を、積極的に人を集めて行ったとは認められないものの、秘密裏に行う意志のない状態で、しかも他社の社員である【G】の立ち会う中で行った以上、前記砕土装置は公然と実施されたものであるとするのが相当であり、この公然と実施したことは、本人【A】にとって、意に反したこととは認められない。」(同45頁5~12行)としたうえ、「前記実験した砕土装置は、・・・本件発明1(注、本件発明)・・・と同じ構成を持つものであり、本件発明1・・・は、本件出願前国内において公然と実施された発明であり」(同46頁6~12行)と判断したが、それは誤りである。

すなわち、29条1項各号の一に該当するに至ったこと(この場合は、公然実施されたこと)が、「特許を受ける権利を有する者の意に反し」(同法30条2項)たといえるためには、特許を受ける権利を有する者の、公表すべきでないという内面的意思が存在することが必要であるが、原告は、本件実験が失敗に終わるかもしれないことを危惧して、これを秘密裏に行いたいと考えていたのであり、本件実験を行うことを誰にも案内していなかった。そして、原告は、自ら圃場を有しないため、【F】の協力を得て、同人の圃場で本件実験をした(【F】は、原告と極めて親密であるとともに、本件発明の完成についてのアドバイザーでもあったことから、【F】に発明内容を知られたからといって、本件発明が公知となるものではない。)が、その実験を行った位置は、西側の道路(西20号)までの直線距離が100m、南側の幅員2.3mの未舗装の道路(南6線)までの直線距離が、最も近いところで80m、北側の道路(南5線)までの直線距離が330mあり、実験中に周囲の道路を通行した者が実験風景を見たとしても、本件試作品がどのような構造になっているか等を知り得べくもなかった。

ところが、【G】は、本件実験の現場に突然現われ、原告の許可なく、本件実験の写真撮影をしたものであり、原告は、本件実験を【G】に見せるつもりはなかったのである。

したがって、原告は、本件実験を秘密裏に行いたいとの内面的意思を有していたのであり、【G】にこれを知られたのは、原告の意に反することであった。

原告に本件実験を秘密裏に行おうとする意思があったとは認められないことの根拠として、審決が挙げる、原告が本件実験を秘密裏に行うことを誰かに意思表示した事実は認められないこと、原告が、自分の発明したものであれば、特許出願前に他人に知られても特許を得られると思っていたことは、いずれも、上記の本件実験を秘密裏に行いたいとの内面的意思とは無関係である。

加えて、本件の無効審判請求事件において平成10年3月19日になされた証拠調手続(以下「証拠調1」という。)及び同年7月2日になされた証拠調手続(以下「証拠調2」という。)における【G】に対する各証人尋問において、【G】は、本件実験を見て写真撮影をした時刻につき、夕方頃であると証言する(甲第8号証の1第59頁、同号証の2第241頁)が、該撮影写真(甲第10号証)の方角及び陰影から見て、その撮影時間が午前中であることは明らかであり、同人の証言には疑問があるが、審決の判断は、この点についても解明していない。

したがって、審決の上記判断は誤りというべきである。

第4被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)について

(1)  ダルボ社砕土装置の公然実施の認定の誤りについて

甲第5号証の1(審決甲第1号証)添付資料2~4に記載された船名が「MAERSK PARIS」であり、甲第5号証の2、3(審決甲第1号証の2、3)に記載された船名が「LICA MAERSK」であることは認める。

しかしながら、審決記載(審決書15頁17行~16頁3行、16頁20行~17頁8行)のとおり、甲第5号証の1添付資料2、4記載の「B/L No.」と甲第5号証の2記載の「THRU B/L No.」が同一であり、また、該甲第5号証の2記載の「OCEAN B/L No.」と甲第5号証の3記載の「B/L番号」とが同一であって、同一会社で、これら同一の「B/L No.」が付されるものがいくつもあるとは社会通念上考えられず、上記船名の違いは、被告が、スタルケ・ブリュッケ輸入輸出会杜を通じて、ダルボ社砕土装置を購入したとの審決認定の事実を覆すに足りるものではない。

(2)  相違点の看過について

原告は、ダルボ社砕土装置には、取付ブラケット13に取り付けられる基部フレーム7の軸線の方向を調節する調整ねじ24、及び基部フレーム7に対する転動体支持フレーム8の角度(砕土用転動体の角度)を調節するための調整ねじ20が設けてあり、これらの調整ねじによって、基部フレーム7の軸線及び基部フレーム7と転動体支持フレーム8とを接続する軸受18の軸線の方向を調節するのに対し、本件発明は、支軸19の軸線は常に進行方法を向くよう固定してあって、調整ねじを一切用いていないから、審決には相違点看過の違法があると主張する。

しかしながら、本件発明の要旨が規定する「前記プラウフレーム2に設けられる基部フレーム7」との構成は、取り付ける態様を特に限定するものではなく、基部フレーム7の一端がプラウフレーム2に直接固定される場合のみならず、プラウフレーム2に対し、基部フレーム7が取付角度調整可能に設けられた場合も含むものである。同様に、本件発明の要旨が規定する「基部フレーム7に長手方向の中央部が軸支された門型の転動体支持フレーム8」との構成においては、基部フレーム7が門型の転動体支持フレーム8を軸支していればよく、その取付角度が固定されている場合のみならず、これが調整可能である場合も当然に含まれるものである。

したがって、本件発明において調整ねじを一切用いていないとする原告の主張は誤りであり、審決の認定するとおり、調整ねじを設けていないのは本件発明の実施例であるにすぎない。

のみならず、ダルボ社砕土装置において、調整ねじは、最適な使用状態に固定するために操作するものであり、同一作業条件の下では、一度調整すれば、作業の都度、改めて調整する必要はなく、取付角度は固定した状態となるものである。したがって、仮に、本件発明が調整ねじを用いないものであるとしても、上記調整後のダルボ社砕土装置の構成はこれと変わるものではなく、調整ねじの有無が、本件発明とダルボ社砕土装置の相違点ということはできない。

(3)  相違点についての判断の誤りについて

ダルボ社砕土装置において、取付ブラケット13に取り付けられた基部フレーム7が直線状に形成され、かつ、取付ブラケット13における基部フレーム7とプラウフレーム2の取付位置の間に乖離(約30㎝である。)があることは認める。

原告は、そのことの故に、ダルボ社砕土装置において、砕土用転動体6が、プラウフレーム2から遠ざかる方向に存在し、プラウフレーム2の反転に備えるために、全長(横幅)の長い大型で重量のあるものとなっていると主張するが、耕土状態に調整した場合の砕土用転動体6の全長(横幅)は、耕起反転された土の幅相当であり、不必要に大型化するものではない。

また、原告は、本件発明の基部フレーム7をプラウフレーム2に設け、基部フレーム7と砕土用転動体6とを軸支する支軸の軸線が進行方向に位置する構成により、砕土用転動体6の全長(横幅)を短くして、小型軽量化を図ることができるとも主張するが、本件発明においては、プラウフレーム2における基部フレーム7の取付位置は限定されないのであり、これを基部フレームの先端(トラクタ寄り)に取り付けた場合には、必ずしも、取付ブラケット13に取り付けた場合に比べて、砕土用転動体6の小型軽量化が達成されるものではなく、該主張は、本件発明に基づく主張ではない。

2  取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)について

(1)  相違点看過について

原告は、引用例発明につき、延長部58が、横ビーム25の約4分の1の位置で軸部材31に連結され、この延長部58の他端に連結されている引っ張りバー54が、フレクシコイル・ローラ52の長手方向中央部に位置していることから、フレクシコイル・ローラ52の全長(横幅)の約2分の1が、横方向ビーム25の長さの約4分の3に相当するとした場合に、フレクシコイル・ローラ52の左右いずれか2分の1の横幅のうちのかなりの部分が、耕起されていない土の部分を進行することになり、フレクシコイル・ローラ52が、無用に横幅が長いものとなると主張するが、引用例発明においては、耕起した土が、土壌反転円盤22によって、引用例第2図であれば、進行方向右側に全体幅の4分の1ほど耕起反転するものであるから、延長部58が、横ビーム25の約4分の1の位置で軸部材31に連結され、引っ張りバー54が、フレクシコイル・ローラ52の長手方向中央部に位置しているとしても、フレクシコイル・ローラの全長(横幅)の約2分の1が、横方向ビーム25の長さの約4分の3に相当する必要はなく、フレクシコイル・ローラは、耕起反転した土の幅相当の幅を有すれば足りるものである。

したがって、原告の該主張は誤りである。

(2)  相違点(1)についての判断の誤りについて

原告は、引用例発明において、継ぎ手56の部分で延長部58と引っ張りバー54とが屈曲するため、フレクシコイル・ローラによって砕土することができない部分が生じ、さらに、フレクシコイル・ローラ52が土の抵抗によって傾くこともあるのに対し、基部フレームに継ぎ手がない本件発明においては、そのような問題が生じないから、相違点(1)につき、「本件発明1のように基部フレームにしたことにより引例発明と比べ格別の効果も認められない」とした審決の判断が誤りであると主張するが、審決の認定するとおり、本件発明の基部フレームのような1つのフレームで砕土装置を接続することは、本件出願前に周知であり、原告の主張する効果は、かかる周知の砕土装置の奏する効果であるにすぎないから、原告の該主張は失当である。

また、原告は、引用例発明が、プラウを反転させる際に、プラウを持ち上げるものではなく、本件発明と技術的思想又は技術的前提を異にするから、本来、比較できないものであるとも主張する。

しかしながら、引用例発明のA型フレーム29がトラクタに装着されるものであることは自明であるところ、トラクタにプラウを装着した場合には、プラウフレーム反転の際や、移動の際に、プラウを持ち上げることが必要となるから、トラクタにはプラウの持上げのためのリフト機構(トップリンク、ロアリンク等)が必ず設けられているものである。したがって、引用例発明の砕土装置においても、トラクタのリフト機構により、プラウ体43を土中にある状態から、土壌反転円盤22とプラウ体43が圃場の土面を削らない状態まで持ち上げ、その状態で土壌円盤22とプラウ体43を回転させるものであることは明白であって、原告の上記主張は誤りである。

(3)  相違点(2)についての判断の誤りについて

原告は、本件発明において、基部フレーム7を直線としなかった場合には、基部フレーム7のプラウフレーム2側の部分を回転自在としても、転動体支持フレーム8は回転自在とはならず、これを回転自在とするには、基部フレーム7と転動体支持フレーム8との接続部で回転自在とする構成が不可欠となるから、相違点(2)につき、「本件発明1のようなところに前記回転自在の構成とすることにおいて、引例発明のものと比べ格別構造上の困難性も効果上の顕著性も認められない」とした審決の判断が誤りであると主張する。

しかしながら、本件発明において、基部フレーム7を直線としなかった場合であっても、引用例発明と同様、基部フレーム7のプラウフレーム2側の部分の支軸の軸線をトラクタ進行方向に位置し、回転自在に構成した場合には、転動体支持フレームは回転自在となる。したがって、本件発明のように基部フレームと転動体支持フレームとの接続部で回転自在の構成とするか、引用発明のようにプラウフレームと基部フレームの接続部で回転自在の構成とするかは二者択一であって、当業者であれば必要に応じて格別の困難性なく適宜することができたものであり、原告の上記主張は失当である。

3  取消事由3(無効理由4についての判断の誤り)について

原告は、本件実験を秘密裏に行いたいとの内面的意思を有していたのであり、【G】にこれを知られたのは、原告の意に反することであったと主張する。

しかしながら、本件実験の現場に、【G】又はその他の者を呼んで本件実験を見せようとする積極的な意思までは原告になかったとしても、原告が、自分の発明したものであれば、特許出願前に他人に知られても特許を得られると思っていたこと、本件実験の現場が南6線から60m程度の位置であり(甲第8号証の1第128頁10~12行)、格別、遮蔽物等によって本件試作品を覆い隠すようなこともしておらず、同路上を通行する者が肉眼によって(必要があれば双眼鏡等を用いて)本件実験を観察することが十分可能な状況であったこと、原告は、被告従業員であって、原告に対し守秘義務を負う者ではない【G】が本件実験の現場に現われた際に、退去を求めたりすることもなく、そのまま実験を継続し、また、同人が少なくとも20~30分現場に留まって実験に立ち会い、写真撮影をしたりした際にも、それを制止したりすることもなかったこと等によれば、原告は、本件実験を秘密裏に行いたいとの内面的意思を有していたものとは認められない。

したがって、本件発明が公然と実施されたことが、原告の意に反するものということはできず、原告の上記主張は失当である。

なお、原告は、証拠調1、2において、【G】が、本件実験を見て写真撮影をした時刻につき、夕方頃であると証言したことを捉え、該撮影写真の方角及び陰影から見て、同人の証言には疑問があって、審決の判断は、この点についても解明していないと主張するが、審決は、原告の主張する点について、「被請求人は、証人【G】の証言は、前記実験の写真であるとする甲第11号証(注、本訴甲第10号証)から窺いしれる時間とその証言でいう時間が違うことから信用できないとしているが、証人【G】の証言と他の証人及び本人の証言をあわせ考えれば、少なくとも上記認定したことについては、これによって左右されるものではない。」(審決書45頁19行~46頁5行)と判断しており、この判断に何ら誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  前示のとおり、いずれも原告の訂正審判請求に係る平成11年審判第39043号事件及び訂正2000-39043号事件の各訂正審決により、本件明細書の記載が訂正され、設定登録時における本件明細書の特許請求の範囲の請求項1~6のうち、請求項2~6が削除されたことは、当事者間に争いがなく、このことにより、審決の結論のうちの、特許第2567812号発明の明細書の特許請求の範囲第2項ないし第6項に記載された発明についての特許を無効とする旨の部分は、その対象を欠くに至り、本件審決取消しの訴えによって、原告が取消しを求めるのは、審決のうち、前示各訂正審決による訂正の影響が及ばない特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本件発明)についての特許を無効とする旨の部分のみとなった。

そこで、本件発明を無効とした審決の判断の当否につき検討する。

2  取消事由3(無効理由4についての判断の誤り)について便宜、取消事由3から判断する。

(1)  証拠調1における【G】に対する証人尋問の結果及び被請求人(原告)に対する本人尋問の結果を記載した書面(甲第8号証1)、証拠調2における証人【H】、同【F】及び同【G】に対する各証人尋問の結果並びに被請求人に対する本人尋問の結果を記載した書面(甲第8号証の2)、【G】が本件実験の様子を撮影した写真8枚(甲第10号証)、原告作成の本件実験現場付近の見取図(甲第14号証の1)、平成11年6月2日又は同年8月3日に原告が本件実験現場を撮影した写真(同号証の2)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。

(a) 原告は、北海道河西郡<以下略>において、昭和60年から、自動車販売及び整備並びにトラクターの整備等を営む有限会社メリット情報内藤の経営をしている者であるところ、平成元年頃、同町において農業を営む【F】と共同で、被告製のリバーシブルプラウを購入したことにより、被告の芽室営業所長であって、該プラウの調整等に当たった【G】と知り合っていたこと、

(b) 原告は、平成5年10月に、その製作に係る本件試作品を【F】方に運び込んだうえ、【F】方農地において、【F】とともに本件試作品の運転実験(本件実験)を実施したところ、その実験場所は、【F】方の圃場内であって、西20号線(幅員約5.6mの舗装道路)から東方に100メートル前後、南6線(幅員約2.3mの未舗装道路)から北方に60~80m前後、南5線(幅員約5.6mの舗装道路)から南方に330m前後の距離の位置に当たり、各道路と実験場所との間には、特段の遮蔽物はなかったこと、

(c) 原告と【F】が本件実験を実施している際に、【G】がその実験の現場を訪れ、約20~30分程度その場に留まって、本件試作品を運転中及び静止中の双方の状態で見分し、その写真(甲第10号証)を撮影をしたが、その際、原告及び【F】は、【G】に対し退去を求めたり、写真撮影を制止したり、撮影済みフィルムの提出を求めたりしたようなことはなく、その面前で本件実験を継続し、また、【G】と原告及び【F】とは、本件実験の現場で、通常の挨拶を交わしたり、【G】が原告に、本件試作品について「いい物を造った」との感想を述べたりしたこと、

(d) 本件実験に供された本件試作品は、本件明細書添付の図1~7の各図(甲第3号証)に示された構成と同一の構成を備えていたこと、

(e) 原告は、本件試作品につき特許出願をする意思を有していたが、本件実験当時は、自己の発明したものであれば、特許出願前に他人に見せても、特許権の取得に支障が生じることはないものと考えていたこと、

以上の事実を認めることができる。

なお、本件実験が行われることを【G】が知った経緯及び本件実験が施行された時間について、前示甲第8号証の1、2の【G】の供述記載中には、原告から電話で本件実験を行う旨の知らせを受けたもので、その施行は夕方であったとする部分があり、他方、前示甲第8号証の1、2の原告、【F】及び【H】の各供述記載中には、有限会社メリット情報内藤の従業員である【H】の依頼で、本件実験の施行前日の夕方に、【G】が【F】方圃場で本件試作品のプラウの調整をしたことによるもので、本件実験の試行は午前中であった旨の部分があって、いずれとも認定し難い。

(2)  前示(1)の(d)の認定事実、本件発明の要旨及び訂正2000-39043号事件の訂正審決に係る訂正後の本件明細書(甲第17号証添付)の記載によれば、本件実験に供された本件試作品が本件発明の構成を備えるものであることが認められる。

そして、前示(1)認定の各事実によれば、原告は、その取引先の従業員という関係を有するにすぎない【G】が、本件実験の現場において、相当時間これを見分し、その写真撮影をする中で、本件試作品の運転実験を継続していたのであるから、本件発明が公然と実施されたものであることは明らかである。

(3)  原告は、本件実験が失敗に終わるかもしれないことを危惧して、これを秘密裏に行いたいとの内面的意思を有し、本件実験を行うことを誰にも案内しておらず、【G】は、本件実験の現場に突然現われ、原告の許可なく、本件実験の写真撮影をしたものであって、本件実験を【G】に知られたのは、原告の意に反することであったと主張し、前示甲第8号証の1には、概ねこれに沿う原告の供述記載部分が存在する。

しかしながら、原告が、本件実験を行うことを【G】又はその他の者に案内して、これを見せようとする積極的な意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない(前示のとおり、甲第8号証の1中の、原告から電話で本件実験を行う旨の知らせを受けたとする【G】の供述記載部分を直ちに採用することはできない。)ものの、前示(1)の(c)の認定事実によれば、原告において、【G】が本件実験を見分し、その写真を撮影するのを、消極的にではあれ、容認していたことは明らかである。そうすると、【G】が本件実験を見分し、その写真を撮影したこと、すなわち、前示(2)のとおり、本件発明が公然実施されたことが、原告の意に反することであったということはできない。

なお、本件実験が行われることを【G】が知った経緯及び本件実験が施行された時間については、前示のとおり、確定し難いが、その如何によって、前示認定判断が左右されるものではない。

(4)  したがって、無効理由4につき、「本人【A】は、前記砕土装置の実験を、積極的に人を集めて行ったとは認められないものの、秘密裏に行う意志のない状態で、しかも他社の社員である【G】の立ち会う中で行った以上、前記砕土装置は公然と実施されたものであるとするのが相当であり、この公然と実施したことは、本人【A】にとって、意に反したこととは認められない。」(同45頁5~12行)、「前記実験した砕土装置は、・・・本件発明1(注、本件発明)・・・と同じ構成を持つものであり、本件発明1・・・は、本件出願前国内において公然と実施された発明であり」(同46頁6~12行)とした審決の認定判断に原告主張の誤りはなく、そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件発明についての特許を無効とする旨の審決を取り消すべき限りではない。

3  よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利)

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